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2016.03.08

IPS 健康寿命延ばす

 

日本経済新聞

2015年(平成27年)12月16日(水曜日)

 

京大・山中教授公演特集

IPS 健康寿命延ばす

日本経済新聞社と日本経済研究センターは2日、大阪市内で「関西経済人・エコノミスト会議」をひらいた。「iPS細胞が創る新たな世界」をテーマにした講演会では京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授がiPS細胞の応用や課題について語った。

 

私が中~高校生のころ米国で出版されたジャパン・アズ・ナンバーワンという本があった。高度経済成長まっただ中で、日本は成長するというタイトルで鮮明に覚えている。それから30年がたち日本経済は苦戦している。国内総生産(GDP)で中国に抜かれた。

それでも日本が間違いなくナンバーワンの分野がある。高齢化は断トツの世界一、ジャパン・アズ・ナンバーワンだ。人口ピラミッドは1960年には富士山型で若者が高齢者を支えた。2010年は釣り鐘型で、50年には逆富士山型になり不安定だ。即効的に対策しないと大変なことになる。

それでも平均寿命は女性は世界一。男性は香港と争う。問題なのは平均寿命と健康寿命の差だ。男性で9歳、女性で12歳の差があり、介護が必要になる。介護になるのは脳卒中や認知症の病気で、この差を改善して5年になったら社会が変わる。これにiPS細胞が貢献できる。

iPS細胞は05年にできた。京大に移って数年後でワクワクどきどきの毎日だった。06年にネズミで、07年に人間で実現した。最初は皮膚細胞から作った。3万ある遺伝子のうち4つの遺伝子を働かせたところiPS細胞になった。

iPS細胞は優れた能力を持つ。あらゆる細胞ができる万能性。iPS細胞には2つの応用がある。iPS細胞から作った細胞を移植し、昨日を回復する再生医療。もう一つは、細胞を実験室でそのまま使って病気を再現し、病気の発生や進行を調べて薬を開発する。実はiPS細胞の効果的な使い方は薬の開発ではないかと考えている。対象となる患者さんの人数から考えて可能性はいっぱいある。

 

30ヵ国・地域で特許

 

松本紘先生(元京大総長で理化学研究所理事長)のリーダーシップで、10年にiPS細胞研究所(CiRA)ができた。私は初代の所長を務める。Aはアプリケーション(応用)の意味で私達の使命だ。最初に尽力したのは基本特許の成立で、もし欧米のベンチャー企業が取得したら医療費が高額になる恐れがあった。

C型肝炎の特効薬が今年出た。飲み薬で99.9%の肝炎が消える。これも基礎研究の成果だが、薬は8万円(薬価)。お金を持っている人しか助からない。iPSではそうなってはいけないと考えた。これまで日本や欧米など30ヵ国・地域で特許が成立した。

再生医療で日本はナンバーワンだ。高橋政代先生(理化学研究所プロジェクトリーダー)が昨年、加齢黄斑変性という病気でiPS細胞から作った網膜を入れ替える手術を実施した。1年経過し、上々の滑り出しだ。

京大の高橋淳教授はパーキンソン病の治療を目指す。同病は脳の神経細胞だけが悪くなり、全身の筋肉が動かせなくなり寝たきりになる。iPS細胞から神経細胞を作り出し、サルで安全性と効果を検証を進める。1~2年内に臨床研究か治療を始める。

京大の江藤浩之教授はiPS細胞から血小板と赤血球を作る。献血でも高齢化の影響で、27年には献血液が100万人単位で足りなくなる。京大の金子新准教授はがん細胞を研究する。iPS細胞から免疫細胞を作ると患者に投与する。4番目のがん治療と呼ばれる免疫治療で、膵臓(すいぞう)がん、胆管がんなどをやっつけられる。

いま力をいれるのがあらかじめ健康な人の細胞からiPS細胞を作って保管するストックだ。加齢黄斑変性では本人から細胞をつくったが、細胞の品質を評価するだけで1人5000万円以上かかった。これが10人、100人、1000人では採算が合わない。実用化を進めるにはストックが必要だ。

ボランティアの方に外来に来てもらい同意を得て提供を受けた血液からiPS細胞を作る。品質がよいものだけを作り、8月に第1号を分配した。本来は他人の細胞では拒絶反応が起きるが、他の人に移植しても拒絶反応を起こしにくい人がある。1人

いれば日本人の20%に対応できる。だいたい100人見つければ日本の人口の85%、1億人をカバーできる。

 

多様な人材が必要

 

薬の開発では、アルツハイマー病について京大の井上治久教授が研究を進める。認知症の患者さんのiPS細胞から脳の神経細胞にする。薬を加えて詳しく調べれば、効果がある患者をあらかじめ予測できる。ある患者にはこの薬、ほかの患者には再生医療という使い分けができる。オーダーメード医療、個別化医療を実現したい。

今年は武田薬品工業と共同研究を始めた。12月から本格的にスタートする。製薬企業と共同研究を進める場合、これまでは企業に大学へ来てもらっていたが、今回は全く逆だ。京大が武田の研究所に出向く。武田の中で研究する。本格的な医療応用では、大手の製薬企業と組まないと進められない。大学やベンチャー企業だけでは難しい。本当の意味で使える医療にはならない。

実用化にはいろいろな人材が必要だ。iPS細胞研究所では文系の出身者も活躍し、銀行や保険会社からも出向している。毎日深夜まで働いている。iPS細胞を医療応用するには様々な高度な知識が必要だ。ゴールにたどり着かない。

研究所のメンバーは350人以上で、雇用が苦戦している。非正規雇用の労働者は4割とされるが、研究所は9割。353人のうち、28人しか正規雇用はいない。5年後にはほとんど雇用できない。研究所の運営費は40億円で国から支援をいただいている。米国でも国から研究費をもらうが、私が所属する米グラッドストーン研究所は個人や企業の寄付がある。20年前に一緒に働いた研究を支える技術員が今も活躍している。寄付があり雇用できる。

米国のいいところを見習いたい。研究も大事だが、寄付活動も続ける。先日、大阪マラソンを走った。1回マラソンに参加すると1000万円の寄付が頂ける。研究支援者の雇用、若手研究者の人材育成ができる。年間最低でも5億円が必要だ。400人ががんばっている。これからも関西の地でがんばっていきたい。

 

iPS細胞を創薬に生かす

 

新薬研究 対象多く

 

iPS細胞を使えば病気になった細胞や組織を実験室で再現し治療効果のある物質を探せる。京都大学iPS細胞研究所では創薬に向けた研究が相次ぐ。

妻木範行教授らは兵庫医科大学や理化学研究所などと共同で、成長時に軟骨が育たず低身長になる「軟骨無形成症」という難病の治療に高脂血症治療薬「スタチン」が効く可能性があることを突き止めた。英科学誌ネイチャーに成果を発表した。

妻木教授らは難病患者から皮膚の細胞を採取してiPS細胞を作製。この細胞が軟骨細胞になるかどうか実験した。健康な人のiPS細胞から軟骨細胞ができたが、患者のiPS細胞はある遺伝子が過剰に働き、軟骨細胞が満足にできなかった。

そこでその遺伝子の働きを弱める候補物質を探し、既存薬のスタチンに注目。スタチンを投与すれば患者のiPS細胞からも軟骨を作れると確認した。妻木教授は「副作用を起こさない投与量を調べ、治療薬の開発につなげたい」と話す。

井上治久教授らは全身の筋肉が次第に動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)の神経細胞を患者の皮膚細胞から作り、培養皿の中で運動をつかさどる神経細胞に変化させた。患者から作った神経細胞は健康な人から作った細胞に比べ、特有の突起の長が短くなっていた。この神経細胞に様々な化学物質を加えて反応を見れば、治療薬開発につながる。

iPS細胞を使う研究では網膜や神経、心臓などの細胞を作り患者へ移植する細胞移植が注目を集める。ただ患者の体に入れる細胞は遺伝子の変異など安全性に関わる項目を詳しく調べる必要があり、費用や手間がかさむ。創薬研究は対象となる病気の数も多く、iPS細胞が持つ潜在能力を生かしやすい。

 

「細胞ストック」進む

 

京都大学iPS細胞研究所では、患者へ移植するiPS細胞をあらかじめ他人の細胞から作って備蓄しておく「iPS細胞ストック」の整備が進む。8月には大日本住友製薬へ第1弾となる細胞を提供した。今後は多様な免疫の型に対応した様々なiPS細胞の備蓄を進め、日本人の8~9割に対応できるストックの構築を目指す。

京都市のiPS細胞研究所の第1研究棟の一室に、作製したiPS細胞をセ氏マイナス196度の液体窒素で冷凍保存するタンクが並ぶ。

iPS細胞は血液などの細胞に遺伝子を入れて作る。様々な臓器や神経の細胞に育つが、採血から高品質な細胞を作るには時間と費用がかかる。昨秋に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらが世界で初めて実施した目の難病治療の臨床研究では、患者の皮膚からiPS細胞を作製。iPS細胞を作るのに薬4ヵ月かかり、費用は5000万円を超えた。

 

 

京大iPS細胞研究所の2030年までの目標

①iPS細胞ストックを柱とした再生医療の普及

②iPS細胞による個別化医薬の実現と難病の創薬

③iPS細胞を利用した新たな生命科学と医療の開拓

④日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備

 

 

日本人89割対応めざす

 

iPS細胞研究所医療応用推進室の高須直子室長は「他人から作り備蓄したiPS細胞を使えば、治療費用の節約や期間短縮につながる」と話す。遺伝子変異など安全性の検査に時間をかけられる利点もある。

ただ他人から作った細胞を患者へ移植すれば拒絶反応が起きるリスクが高い。そこで京大では、ある範囲の免疫型を持つ人へ移植しても拒絶反応が起きにくい特殊な免疫型の人から採血し、備蓄細胞を作っている。8月に提供した細胞は日本人の約20%へ移植できる。

2017年度末までに5~10タイプの免疫型の備蓄細胞を作り、日本人の3~5割に対応できるようにする。さらに22年度末までに、日本人の8~9割をカバーする75~150タイプの備蓄細胞を作る。

 

 

 

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